と、その時。
 ドンドン、と乱暴に扉を叩く音がして、二人は飛び上がった。弾かれるように離れて立ち上がる。
「は、はい」
 裏返った声でリシアが返事をすると、扉がバターン、と勢い良く開き、二人にとって馴染みの人々が雪崩れ込んできた。
「おー、悪いな、新婚さんの邪魔してっ」
 上機嫌で顔を赤くしているのはテイル。相当酔っているようだ。セリスが嫌そうに肩を貸している。
「姫様のあららしいお部屋を見らいことには、このリーザ帰れまへんわっ」
 そう絶叫しているのは、同じようにすっかり酔っぱらったリーザ。セルクとシエラが肩を貸している。シェリーが申し訳なさそうにリシアに向かって言った。
「ごめんねえ、リシア。やめようって言ったんだけどさ、テイルとリーザとエクタがさ、どーしても来るって聞かなくてさ」
 リシアとルイシェが曖昧な笑みを浮かべたまま硬直している目の前で、エクタが妙に据わった目でルイシェを睨み付ける。
「ルイシェ、リシアと結婚したということは、つまり君は今日から僕の義弟になるということだ。義兄の訪問を嫌だなんて言わないだろうね?」
 鬼気迫る雰囲気で搦め手に出るエクタの背中を、テイルが馬鹿笑いしながらバシバシと叩く。
「あははは。凄いこと言ってるな、エクタ。そういうこと言ってると、ルイシェに嫌われるぜ」
「そーれす、エクタ様! イェルトに出入り禁止になったら、ろーするんですか」
 会話の内容で、段々どういう状況で皆がここに来たのかがルイシェとリシアにも分かり始めた。二人で顔を見合わせて、やれやれと溜息をつく。
「ルイシェ、君、今溜息をついたな? 僕がここに来たのが邪魔だとでも言うのかい?」
 相変わらず絡むエクタを、酔っぱらったテイルとリーザが妙に明るい雰囲気で止める。
「そりゃそうだろ、エクタ。お前だって二人きりのところ邪魔されちゃ、溜息つくだろう」
「そうそう。馬に蹴ろらるれて、ポーンれすわ」
 おかしな雰囲気の中、リーザが机の上に置いてあった葡萄酒を目ざとく見つけ、グラスに注ぎ始めた。
「ともあれ、おめれとーごらいます、姫様。姫様は飲めらいから、代わりにわらしが」
 グーッと煽るリーザを見て、テイルが囃したてる。
「流石リーザだね、いい呑みっぷり。俺も頂こうか。エクタも怖い顔してないで、呑む呑む!」
 かくして、呆れ顔の面子を前に、酔っぱらい三人の居座っての酒盛りが始まる。
 それを見ていた他の面々も、三人を引きずって帰るのは困難と判断したようだ。それぞれに、ソファや椅子に落ち着き始めた。
「すまねえな。邪魔するのは趣味じゃねーんだが、俺らが帰ったらこいつら、何しでかすかわからねーからここに居させてもらうぜ」
 セリスが代表して、ルイシェとリシアに謝る。リシアはルイシェの側に座りながら、首を振った。
「ルイシェとはこれからずっと一緒だもの。今日はみんなと一緒の方が、私もいいわ」
 リシアの言葉にルイシェも頷き、周囲にほっとした空気が流れた。
 その後、二人の了承を得た人々が、館の外にまで響きわたるどんちゃん騒ぎを繰り返し、朝方になってやっと眠りについたことは、言うまでもない。

 リシアは、朝、一度皆が寝静まっている時に、ふと目を覚ました。寝なれぬ椅子の上で、体があちこち強張っていた。
 エクタとルイシェがテーブルに突っ伏し、テイルは床に大の字になって眠っている。セリスとセルクは壁に凭れて、リーザとシェリーは仲良くソファーの上で眠っていた。シエラは別のソファで横たわっている。
 皆の安らかな寝息を聞いていると、とても幸せに感じた。
(こんな新婚初夜も、ありだよね)
 心の中で呟き、ルイシェにもう一度、視線を戻す。
 夫となった、最愛の人。長い睫毛が伏せられ、その眠っている表情はとても綺麗で、柔らかかった。
 足音を立てぬよう、ルイシェの側に行く。
 屈んでその頬にそっと、口づけをした。
 そのまま、ルイシェの側に座り、肩にかけたショールをルイシェと自分にかけ直して、再び目を閉じる。
 体を伝わる、ルイシェの寝息。
 それを聞いているうちに、リシアも再び、夢の世界へと誘われていった。

fin.