エクタ達が城に戻った時には、晩餐会に招かれた人々が暇を持て余し、庭をそぞろ歩いていた。慌てて三人は、準備をしはじめた。
 リシアが戻ったことで、リーザは涙をこぼして喜んだ。イークには、何が起きたかまでは知らせられなかったが、それでも何かが起きたということはばれてしまったらしい。叱責されたようであったが、そんなことも気にしない様子でリーザはリシアの身支度を整えていた。
「ねえ、リーザ。格好よかったのよ、兄様とルイシェ様。二人で私のこと、助けてくれたんだから。兄様が私を庇って、ルイシェ様が戸口を塞いで、悪者がすぐに降参しちゃったの」
「はいはい、リシア様、わかりましたから……それより、本当に、生きててよかった……」
 てきぱきとリシアにドレスを着せながら、リーザはたまに目を潤ませていた。その様子を見て、リシアも少し胸が熱くなった。しおらしく、謝る。
「リーザにも心配かけて、ごめんね」
「本当ですよ。手首に、こんな縄の跡がついてしまって……何とか腕輪でごまかしましょうね。でも、不幸な巡り合わせもありましたしねえ。リシア様も、最初はただお一人になりたかっただけだったのに、たまたまそこに傭兵達がねえ……」
 リーザが今日のことをしみじみと振り返っている間に、リシアの興味は別なところに完璧に移行していた。鏡を覗き込みながら、リーザの言葉を遮って、一生懸命に尋ねる。
「ねえ、リーザ、私、こんなに髪を短くしちゃってて、みっともなくない? あっ、あとね、ちょっと大人っぽく香水とかつけた方がいいと思う?」
「……はあ?」
「だからねー、ちゃんと可愛く見えるかな? あーあ、もうちょっと髪の毛伸ばしておけばよかった。そしたら、女の子らしく見えるのにな」
 いつもはお洒落になど興味が殆どないリシアの変貌ぶりに、リーザは呆気にとられたが、すぐにリシアが何を気にしているかを察知した。あの少年である。余り男性に興味のないリーザですら息を呑むほど綺麗な少年に命を助けられたのである。心を動かされて、当然なのかもしれない。リーザはくすり、と笑った。
「はいはい、髪の毛はすぐには伸びませんから、リボンで飾りましょう。姫様の青銀の髪には、深い赤のリボンが良くお似合いですよ」
 リーザの声は我知らず、いつもよりとても優しくなっていた。

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