さらに数刻後。城門の前で、見送りに来たイーク王、エクタ、リシアの前で膝を付くルイシェ達の姿があった。イーク王が、ルイシェに剣の一束を手渡す。
「ルイシェ殿、これを持って行かれよ。戦地では良い武器も手に入らぬだろう。それと余計なことかとは思ったが食糧を馬車に少しばかり積んでおいた」
「ありがとうございます。生きて帰れば、このお礼は必ず……」
「いや、よい。それよりも、生きて帰られよ。そなたは良き王になる」
イークの暖かい言葉に、ルイシェは深々と頭を下げた。気宇広大なイーク王に、心からの尊敬を覚えた。
次にエクタが、ルイシェを立たせて声をかける。
「さっきは、申し訳なかった。君の立場を心得ていない僕が浅慮だった。もし何か僕が役に立てることがあれば、いつでも連絡をくれ。友人として、できるだけのことはする。君の腕があれば、何だって切り抜けられるさ。……元気でな。また会おう」
「君の気持ちが嬉しかったよ。ありがとう。また会える日を楽しみにしている」
笑顔で、しっかりと固い握手が交わされる。送る者、送られる者。同じ王子として、認めあう二人には、相応しい別れかもしれない。
そして、リシアが最後に、ルイシェの前に立った。二人の間には、しばらく言葉はなかった。まっすぐな視線だけが、お互いの約束を確認しあう。
「……手紙、書いてもいい? 届かないかもしれないけど……お返事はいいから」
「うん」
二人の間に交わされた言葉は、それだけだった。それだけで、充分だった。
僅かな微笑みが、二人の間を行き交う。
そして、ルイシェは旅立ちを決断した。
「エルス国に更なる繁栄がもたらされることを」
ルイシェは胸に手をあて、敬意を三人に表すると、後は振り向かずに従者達と共に、馬車に乗り込んだ。
リシアは、胸が潰れそうだったが、それでも約束をルイシェが必ず果たしてくれると信じて、その姿を見つめていた。
城門が音を立てて開かれる。馬車は、ゆっくりと走り出した。
リシアは奥歯を噛みしめた。泣かない、と決めて、この場に来ていた。また、会えるのだから。それでも、鼻の奥が痛くて、堪えるのに精一杯だった。
そして、馬車は何の感慨も残すことはなく、旅立っていった。
一陣の風が、リシアの髪を揺らす。
馬車の姿がすっかり見えなくなっても、三人はその場にまだ立っていた。
しばらくして、まるで、夢から醒めたかのように、イーク王がエクタとリシアの肩を抱いた。
「今日は、風が冷たいな。中に戻ろうか」
二人は頷き、強くなり始めた風の中、ゆっくりと三人は城へ戻っていった。
第一章 了