王宮の会議室では、イェルト国第二王子ルイシェを迎え、二国間での会議が開かれようとしていた。その前に、初の顔合わせが行われていた。
「初めまして。私がルイシェ・レーヴイナス・イェルトです。第一王子は現在戦地に赴いており、王は国を治める務めがある為、私が今回こちらに伺いました。若輩者ではございますが、今回の件に関しては全権を委任されております。ご納得下さり、公平な話し合いが保たれることを心より望んでおります」
 最初、第二王子と聞いて、このような重要な席に、と表情が硬くなったイーク王であったが、少年の堂々として落ち着いた挨拶と態度に、考えを改める気持ちになっていた。
「いやいや、構わないよ、ルイシェ君。君ならばきちんと話ができそうだ。私は、エルス国王のイーク。そして、こちらが……」
「初めまして、私は第一王子……と言っても、他に王子はいないのですが……エクタです」
 ルイシェは一目見て、エクタが優れた王子であることを見て取った。確か一つ違いの筈だが、自分より遙かに大人びている上、表情にも風格が見られる。
 ルイシェがまじまじとエクタを見ていると、ふっとエクタが目だけで親しげに笑った。思いがけず少年めいたその表情に、ルイシェもつられて微笑んでしまった。
 この心の交流が、彼らのその後長きに渡る友情のはじまりであったことは、本人達は知る由もない。
 会議の方は、粛々と進行されていった。多少無謀か、と思える程イェルト国に有利だったイェルト案を、年数制限付きでエルス国が受け入れる形となる。エルス国側の、戦争で疲弊した国への配慮からであった。荒れると予想された会議であるが、杞憂に終わったようだった。
 思いがけずすんなりといった交渉に、ルイシェは驚きを覚えながら契約印を押した。
「今回のこと、大変感謝しております。父と兄にも伝えましょう」
「クリウ王とロージョ殿には、宜しくとも伝えてくれたまえ。それにしても、君は大変有能だな。いずれ、兄上の補佐をなさるのかな?」
 イークの口から何気なく放たれた質問であったが、ルイシェはふっと表情を曇らせた。
「はい、そのつもりですが……」
 歯切れの悪くなったルイシェを見て、エクタはあることに思い当たった。
 イェルト国はエルス国と違い、一夫多妻制である。現クリウ王には二人の妻がおり、その中でルイシェは、長子のロージョ、三男のライクとは別の母から生まれている。しかも、ルイシェの母は、貴族ではなく、学者出身であった筈だ。そのことが、何らかの影響を及ぼしているのかもしれない。
「そうか。君のような後ろ盾があれば、兄上もさぞ心強かろう」
 イークは何事もなかったように、さらりと話題を終わらせた。深く他国の事情に立ち入ってはいけないというのは、不文律である。が、イークは内心、会議の最中この少年の優秀さに舌を巻いていた。もし、この人物を将来的に国政に関わらせないならば、イェルトの発展はないと思ってもいた。人格的にも、戦闘好きで話がすぐにこじれる父や兄とは違い、理知的で穏やかである。次第にイークはルイシェに好感を抱きつつあった。
「さて、会議は予想していたよりも早く終わってしまったが、予定の滞在期間、この王宮でゆっくりされてはいかがかな。馬も人も長旅でお疲れであろう」
 ルイシェは少し躊躇したものの、セルクに確認を取り、答えた。
「そうさせて頂きます。予定の期間中、父や兄の連絡がここに来ることになっておりますので。ご厄介とは存じますが」
「いや、厄介などということはない。エクタ、歓迎夜食会までルイシェ殿に王宮を案内して差し上げなさい」
「はい」

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