昼食中、リーザはリシアの姿を見て、溜息をついた。
ルイシェが旅立ってから一週間、ここのところリシアが余り食事を取らない。スプーンを手に持つが、じっと何かを考えたまま、殆ど口に運ばないのだ。
「リシア様……お食事を召し上がらないと」
たまらずに口に出すと、リシアは、はっとしたようにリーザを見つめた。
「今、何か言った?」
「いえ、だから、きちんとお食事を取らないと、と申し上げたのですわ」
「あら、本当ね。ちゃんと食べないと……」
そして、急いで一口二口食事を口にするが、すぐにリシアの手は止まり、また物思いにふけるのだった。
リーザは少し強い口調で言った。
「リシア様!」
その声が耳に届くと、リシアは、困ったような目つきでリーザを見上げた。
「どうしても、喉を通らないのよ。リーザ、もういいでしょう?」
「駄目です。リシア様、ここ一週間でひどくお痩せになられましたよ。ルイシェ様がもう一度姫様にお会いになる時、そんなに痩せておられたらがっかりなさいますよ」
今日こそは、と思って、リーザは粘った。元々細かったリシアが、成長期にこれ以上痩せたら身体に障ることは明白だった。
「そうね、そうよね。ルイシェに、もう一回会うんだから……」
ルイシェのことを口に出すと、リシアはやっときちんと食事を取り始めた。リーザは少しほっとしながらも、リシアが可哀想でならなかった。
「ねえ、リシア様。ルイシェ様がご心配なのはわかるのです。ルイシェ様は戦っておられるのですものね。でも……」
リシアの表情を見ながら、言葉を選んで語りかける。
「ルイシェ様がリシア様にして欲しいのは、きっと落ち込むことではなく、お力添えをなさることだと思うんです。誰より怖くて不安なのはルイシェ様です。リシア様はそれを励まして差し上げなければ」
ふっと、リシアの手が止まった。そのままじっとまた止まっている。リーザは、また考え込んでしまったのか、と顔を覗き込む。
ところが、そうではなかった。リーザの一言が、リシアの気持ちを劇的に根底から変化させていたのだった。リシアの表情は、今までにないくらい、真剣で大人びている。強い光がその蒼い目に戻っていた。
「……間違ってたんだ、私」
覚醒したように、リシアの声が驚くほどの深みをもって発せられる。
自分の悲しみを優先させ、ルイシェの本当の苦しみを理解していなかったことに、リシアは気づいたのだった。
落ち込むことではなく、力を添えること。その言葉の意味が、重くリシアにのしかかった。
僅かな後悔の後、後悔している場合ではない、とリシアは思った。
もっと現実的に何かできる筈だ。物理的には手を伸ばしても届かないところにルイシェはいる。それは変えられない。けれど、ルイシェのことをもっと深く精神的に支援すること。それは可能だと考えた。
リシアは、リーザが驚くのも気にせず、喋りだした。
「ありがとう、リーザ。間違ってたのに気づかせてくれて。私、やることが少しわかってきた気がする。ルイシェが助けてくれたのと同じだよね。私も、ルイシェを助けなくちゃ」
いつの間にか、リシアの表情は本来の明るさを取り戻していた。ほっとするリーザの前で、リシアは猛然と食事を取り始めた。