リシアはすやすやと眠っていたが、ぞくりと寒気がして飛び起きた。デュアグ国より西にあるエルス国は、まだ深夜である。
 寒い季節ではないというのに、リシアはカタカタと震えていた。しっかりと毛布を身体に巻き付ける。が、寒さは一向に収まらない。その時、リシアの脳裏には真っ先にルイシェの姿が映っていた。
「……ルイシェ?」
 悪い予感、まさにその言葉がぴったりだった。さざ波のように、不安が次々と押し寄せてくる。こみ上げる悪寒を、リシアは必死で耐えた。爪が白くなるほどの力で両手を組む。
「やだ……やだよ……」
 リシアは必死で神に祈った。
「アーシャル様、レーディア様……誰でもいいから、ルイシェを助けて! お願い!」
 喘ぐような祈りは、隣の部屋に眠るエクタの耳にも飛び込んできた。すぐに起きたエクタは心配になって、寝間着のまま、リシアの部屋の扉を叩いた。
「どうした、リシア?」
「兄様、兄様……!」
 すぐに扉は開き、腕の中にリシアが転がり込んできた。小さな身体ががくがくと震えている。
「何だか、悪い予感がして……怖い、怖いの。ルイシェが、ルイシェが……」
 エクタは妹の背中を優しく叩いて落ち着かせた。
「大丈夫だ、大丈夫……」
 自分でも、何が大丈夫なのかは分からなかったが、リシアを慰める為に、エクタはその言葉を呟き続けた。段々、リシアの身体の震えが収まってくる。
 落ち着いてきたのを察知したエクタは、鎧戸を開け、新鮮な空気をリシアに吸わせた。
 涼やかな夜気を吸い込み、リシアは漸く普段の調子に戻っていた。あれ程の寒気も嘘のように収まっている。エクタにベッドに入るように促され、素直に従う。
「兄様……起こしてごめんね。凄く、不安で……もう、大丈夫」
 エクタは小さく微笑んだ。
「ルイシェもきっと、リシアが心配していることがわかっているよ。無事でいるさ」
 無意味な慰めであることを、エクタもリシアも知っていたが、それでも無いよりはましだった。エクタは再び鎧戸を閉め、リシアにおやすみを言った。
 しかし、二人の目が届かなくなった直後、外では嘲笑うかのように、ひゅうう、と突然風が唸りを上げた。リシアの不吉な予感を裏付けるかのように。

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