披露宴の間には、既に人が集まり、賑わっていた。
王、そして新郎となったルイシェの周りには人垣ができている。ルイシェの側には、エクタやテイル、セリス、そしてひっそりとセルクの姿がある。選び抜かれたかのような美青年の集団に、若い令嬢達の視線は釘付けであった。あわよくば近寄ろうとする者も少なくはなかったが、一緒にいる女性達の存在が彼女たちを怯ませていた。
エルス国一と称えられたことのあるシエラの美しさは、女性達でさえ溜息を漏らす程であったし、侍女に相応しい服を身に纏いながらも際だつリーザの女性らしい肢体には、文句のつけようがなかった。ついでに、褐色の肌をした気の強そうな少女が悪い虫を付かせまいとばかりに、辺りに牽制の鋭い視線を時折走らせている。
「しかしまあ、凄い式だったな」
テイルが興奮醒めやらぬといった様子で首を振りながら、素直な感想を述べた。エクタが頷く。
「全くだ。まさか、僕もこの目で精霊を見ることになるとは思わなかった」
ルイシェは幸いにして過去にももう一度精霊に会ったことがあったが、精霊使いを除いては、普通の人間は精霊に出会うことはまずない。神話やお伽噺の中でしか現れないと信じている者も数多い。その中での精霊の出現は、人々の度肝を抜いた。
「奴ら、何か企んでると思ったら、これだったのかよ……ったく、結婚式自体よりもよっぽど目立ちやがって」
普段精霊に慣れ親しんでいるセリスだけが、舌打ちをしている。
「いや、何よりもの贈り物だと僕は思うよ。ルイシェ、改めて結婚おめでとう。リシアを幸せにしてやってほしい」
エクタが、ルイシェに暖かくも、どこか厳しい祝辞を贈る。ルイシェは真面目な顔で頷いた。
「ありがとう。リシアのことは、任せてくれ」
きっぱりと言い切ったその顔に、強い決意が浮かんでいる。エクタはそれを見て、改めて妹の選択の正しさに、嬉しさと淋しさを感じざるを得なかった。妹の夫ができすぎているというのも、辛いものなのかもしれない、と初めて気づく。
「それにしても、リシアはまだかしら? 王妃としてのリシアも、早く見てみたいのに……」
シエラが優雅に首を傾げながら入り口に目をやる。
「多分、リシア様を一番効果的に王妃らしく見せるよう、イェルト城の方々が苦心していらっしゃるのですわ」
昨日から涙を堪えまくり、その甲斐あっていつもの美しい顔にもどったリーザが控えめに言う。侍女ならではの発言に、シエラが微笑んだ。
「そうね。じゃあ、ゆっくりリシアを待つことにするわ」
しかし、そう長くは待たずに済みそうだった。大きなざわめきが入り口近くで起きたのだ。
「来た!」
歓声をあげるなり、若いシェリーが入り口に向かって走り出す。若者達も一斉に、視線を人々の中心に向けた。
リシアは、一見していつもの姿が多い浮かべられないくらい、大人びた姿へと変身していた。高く結い上げられた青銀の髪に王妃の冠が載せられている。胸元を強調した濃紅のドレスは、派手ではなかったがとても上品である。胸元ではおなじみの蒼い宝石の鎖に絡められるようにして純白の淡水真珠の首飾りが組み合わされ、清楚な雰囲気を醸していた。
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