リシアは周囲の人々に次々と祝辞を述べられ、落ち着いた様子で返礼をしている。しかし何かを探すようだったその視線がルイシェに向けられるなり、周囲の人が驚くくらい、リシアは無邪気に微笑んだ。
「リシア、ほら、ルイシェも待ってるよ。やっぱりさ、隣に並ばなくちゃダメだよ」
頬を紅潮させたシェリーがリシアの腕を引っ張って、ルイシェのところに連れていこうとする。リシアも素直に、ルイシェの側へと向かった。ルイシェの側にいたエクタ達が、リシアの為にルイシェの側を空ける。
若い王と王妃が並ぶと、人々の間で溜息や歓声がわき起こった。次々と、各国の要人達が祝福を述べにやってくる。二人はにこやかに、慎ましやかに対応していた。
リシアの登場と同時に、会場には素晴らしい食事が運ばれ、人々はグラスを持ち上げ祝いの言葉を言いながら、歓談を楽しんでいた。
ルイシェとリシアは、切れ目なく続く祝福の挨拶の中で、時折目を見交わしては微笑みあっていた。私的な会話を交わすこともできないほどの忙しさではあったが、二人はこの上なく幸福だった。すぐ近くには、自分達と心の繋がった人々がいて。その中で祝福され。
そして、時間がある限り、エクタ達と若者らしい会話を楽しんだ。これからは、このように度々会うこともなくなるだろう。その時間を、惜しむかのように。
その様子を見ながら、イェルトのクリウ元王とライラ元王妃、そしてエルス国のイーク王がしみじみと会話をしていた。
「これだけの人に祝って貰えるというのは、素晴らしいことだな」
イークが娘の方を見て、目を細める。
「うむ。期待外れになれねばよいが」
いつもの無表情のまま冷静な言葉を呟くクリウに、ライラが微笑んでイークに説明した。
「イーク様、こう見えても、クリウはとても喜んでいるのです。リシアのような良い娘さんを息子の妻とできたことを」
「ライラ!」
自分の本心を語ってしまう妻に、僅かに困惑の表情を浮かべるクリウ。イークはそれを見て、驚きながらも喜んでいた。
かつて自分の知っていたクリウは、冷徹そのものであった。実際的なことを喋る以外、私的なことは一切口にしたことがなかった。だが、今のクリウは違う。
「リシアを受け入れてくれて、感謝している、クリウ。まだあの娘は若い。母も幼いうちに亡くなったゆえ、躾の行き届いていないところもあろう。が、私に気兼ねをすることなく、どんどん鍛えてくれ」
イークの親心の滲む言葉に、クリウはしっかりと頷いた。
「儂が及ばぬところでも、ライラが面倒を見よう。リシアは大した娘だ」
「ええ、リシアは私にとっても大切な娘。実の子と変わらぬ愛情を捧げますわ」
自分の娘に予想以上の好意を持たれることは、決して嫌な気分ではなかった。イークは胸をなで下ろす。
「……リシアを頼む」
駆け引きも何もない、素直な言葉が口をついた。
そんなイークの前で、クリウとライラが力強く頷いていた。
披露宴は、和気藹々とした雰囲気の中、長い時間行われていた。疲労の色を滲ませることもなく、ルイシェとリシアは笑顔を見せ続け、招待客に良い印象を与えていた。
大国の王と王妃としては、宰相を立てぬならば最年少の二人である。
だが、何故この二人が王と王妃になったのか。それを、誰もが納得して受け止めていた。
夜まで披露宴は続き、人々がすっかり満足した頃に、お開きとなった。
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